坂本光男さんという教育に携わる方が書いた文章です。少し長いのですがその一節を紹介します。
我が子を励ます最高の言葉
*高知県のあるお母さんは,あるとき三歳の子(男の子)に聞かれたそうです。
「お母さん,今までで一番うれしかったことは,なあに?」保育園でお家のことを話し合うために宿題が出されたのです。
この質問にお母さんは,「それは,あんたが生まれたことよ。」と何を意識するわけでもなく,ふつうに答えました。するとその子は母親の背中へ近づき,首のあたりにしがみつきました。
そして黙ったまま,いつまでもじぃっとしがみついていたというのです。
*静岡の海で漁をやっているお父さんは,小4の息子に聞かれました。
「お父さん,今日も海へ出るの?台風が来るってよ。大丈夫?」
息子がこんなことを聞くのは,初めてだったそうです。
嬉しかったので
「だいじょうぶさ。大事に育てた息子が待っているんだ。死ぬわけがないだろう。」
と,答えました。
すると息子は立ち上がって
「ぜったいだよ。危ない時は,すぐ帰ってくるんだよ。」
と,力を込めて言ったというのです。
*北海道釧路のお母さんの話
札幌で結婚したもののうまくいかず,夫と別れて娘(中2)と故郷へ戻ってきたのです。
ところが娘は,ツッパリ始めてしまいました。さびしさを紛らわすためか煙草を吸い,夜も遅く帰る日が多い。そこで悩んだお母さんは,ある講演を聞いた帰り道に決意したそうです。
「今夜は是非,生んで良かったといってあげよう。」と。
ところが,家に入ってみるとビックリです。娘が友達と二人で煙草を吸っているではありませんか。血が逆上しました。けれどもお母さんは,必死な思いでがまんしました。今夜は何があっても言ってあげたい・・・・。そこで
「講演を聞きながら,思い出したよ。あんたの小さい頃のことを・・・・・・・・・。」
と切り出しました。
苦労ばかりではなかった。あんたがいてくれて感激があった。やっぱり生んで良かった・・・・・。
意外な話に娘と友達はうろたえています。
「お友達のお母さんも,きっと同じ気持ちだよ。心配していると思うよ。もう,遅いから送ってあげれば。」機転を利かして,お母さんはそういいました。
これに救われた娘は,すかさず
「そうだね,そうするよ。送っていくね。」と言い,二人で戸外へ出て行きました。
それから20分ばかり。娘は帰って来るなり,いつになく明るい声でお母さんに話したそうです。
「別れる時,マスミが言ったんだ。『あんたの母さん,いい母さんだね。もうツッパリやめな。』ってさ。考えさせられちゃったなあ。」と。そしてしばらくの間,下を向いていたそうです。
*富山県の中学2年生の女の子が『父よ,母よ』という文集にこんな言葉を書いていました。
「父よ,あなたは商売日本一。母よ,あなたの家事は日本一。私はあなたの子どもで良かった。」
やはり打てば響くのが,子どもたちです。
いろいろ大変なこともあったけど,やはり生んで良かった。やっぱり育てて良かった。
親子であるがゆえ,かえって伝えづらいことたくさんあるんですけどね。